→卒業生インタビューINDEXページへ

卒業生インタビュー
vol.12

 

多治見市陶磁器意匠研究所の技術コースで学ぶ傍ら、1997年に自ら設計を手掛けた「gallery陶林春窯」を多治見市内にオープンした廣瀬 摂さん。
以来、ギャラリーオーナーとして美濃の若手作家の作品を中心に、うつわと作家の魅力を発信されている廣瀬さんに、ご自身のギャラリーに対する思いを伺いました。


 

□意匠研究所に入られる前は、建築士をされていたそうですね。

はい、僕は高校の頃からずっと建物に興味があって、大学では建築を専攻しました。それで、大学を卒業してから3年間は住宅設計の会社で建築士をしていたんですが、もともと僕の実家は多治見の陶器商※でしたので、いずれは家の商売を継ぐ必要があったんです。ただ、そのまま継ぐというのも、なにか僕の中でしっくりこないというか、どうせやるなら、もっと僕らしさを出したいという気持ちが強くて、そのために、まず意匠研に入って陶磁器のことを基礎からしっかり学んでおきたかったわけです。家の商売柄、美濃焼は子どもの頃から身近に沢山ありましたけど、意匠研に入るまでは、それをどんな人たちが、どんなふうに作っているのか、作り手のことを何も知らなかったんですよ。


□意匠研究所に入られた時には、すでにギャラリーを始めようと考えていましたか?

意匠研に入るまでは具体的に考えていませんでした。でも、やっぱり僕としては建築と陶磁器とが結びつくような仕事というか、うつわの魅力を生活空間の中で見せていくようなことができたら良いなって、そんな感じでしたね。
それで、実際に意匠研に入ってみると、周りの研究生たちが凄く面白い作品を作っているんですよ。先ほども言いましたが、僕は大学を卒業した後、ごく普通にサラリーマン生活を送っていて、実家の商売を継ぐことになったので距離的に近い意匠研に入ったわけですが、僕の周りの研究生たちは年齢も出身地もさまざまですけど、みんな純粋に陶芸がやりたいという衝動に駆られて全国からここに集まって来て、毎日生き生きと制作に励んでいるわけです。それまでの僕とは価値観も生き方もまるで違う人たちに出会ってショックを受けたというか、大げさかもしれませんけど、彼らの生き方に惹かれてしまったんですね。
そんなことがあって、こういう人たちの作品に関わっていく仕事をしたいなと思うようになりました。また、ちょうどその頃に、実家の建物を改装して美濃焼のショールームを作ろうという話がでまして、それなら単に商品を陳列するのではなく、意匠研を卒業したばかりの若い人たちのような、魅力的な作品を作っていても、それを発表する場所が少ない作家さんにスポットを当てて、その人の魅力も作品と一緒に紹介していけるようなギャラリーにしたいと考えたわけです。


□ギャラリーは廣瀬さん自身が設計されたんですね?

そうです。設計は僕がやることになって、もともと民家だった建物を活かしながら、お客様には靴を脱いで上がっていただき、実際の生活空間の中で作品を見ていただくスタイルにしました。さらに、キッチンやカフェも併設して、いろいろなワークショップができるようにしています。
陶林春窯がオープンしたのは2年生の秋で、意匠研の研究生にとっては卒業制作で最も忙しくなる時期だったんですけど、それから卒業までの半年間は、ギャラリーの仕事と意匠研の卒業制作とを掛け持ちでやっていましたね。


gallery陶林春窯(多治見市白山町3-89-1)

□ギャラリーでは具体的にどういう仕事をされていますか?

単純に言えば、作家さんからお預かりした作品を展示販売する仕事ですが、うつわの魅力を発信する手段として、展示以外に作家本人や料理家などのワークショップも開催しています。
ただ、僕の場合はどちらかというと作品のモノとしての面よりも、それを作った人のこと、つまり、どんな人が作っているのか、どんな思いで作っているのか、そういう面を紹介したいという気持ちが強いですね。変に聞こえるかもしれませんが、僕はギャラリーに置かれた作品を見ていると、それを作った人たちが実際にそこにいるように錯覚することがあるんですよ。


□作り手の思いを大切にされているのは、廣瀬さん自身が意匠研究所で学ばれたことが関係していますか?

はい、僕が意匠研で出会った研究生たち、一生懸命に土と向かい合っている人たちに惹かれたことが原点にありますね。
それで、今でも僕は意匠研の研究生の人たちがどんなことを考えて、どんなものを作りたいのか、凄く興味があります。彼らが陶林春窯に来てくれた時には、いろいろ話をしたり相談にのったりしていますから、そうしたつながりで彼らと後々仕事をさせてもらうことが多いですね。
ギャラリーとしては、本来なら人物よりも作品を見て判断しなければいけないわけですが、僕は彼らに多少の未熟さがあるとしても、それを含めて作り手の魅力を伝えていきたいと思っています。

 

□廣瀬さんは作り手の視点だけでなく、フランス料理のシェフとのコラボレーションなど、うつわの使い手の視点からのアプローチも積極的に行われていますね。

うつわのギャラリーとして何ができるかを考えたときに、そもそも、うつわは料理を楽しむというライフスタイルの中に位置づけられるものなので、うつわが独り歩きしては駄目だと思うのです。
とくに現代の若い人たちには、料理を楽しむことを通じてうつわの魅力を知っていただきたいので、こちらとしても本来の展示から一歩踏み出して、うつわを使う楽しさをお客様に提案しています。カフェを併設した理由も気軽にうつわに触れていただきたいからです。
うつわの魅力には、それ自体の魅力もあれば、作り手の魅力や、使うことの魅力もあるわけで、そうした魅力を合わせて、お客様に伝えることができたら良いなと思いますね。


□お話を伺っていると、若手作家の人たちから、料理界の第一線で活躍するシェフまで、さまざまな人との出会いがキーワードだと感じますが、廣瀬さんの意匠研究所にまつわる出会いの中で、とくに印象深いエピソードがありましたら聞かせてください。

そうですね、同期の研究生たちとの出会いは、僕にとって価値観が一変するほどの大きな出来事でしたし、その他にも大勢の卒業生の方々と知り合うことができて、ギャラリーを始めるうえで本当に良い経験になりました。
一例を挙げれば、僕が2年生になった時にギャラリーの改装工事が完了して、いよいよオープンに向けた準備に取り掛かったんですが、その際に意匠研の先生方にお願いして、卒業生の作家さんを30人から40人ぐらい紹介していただいたんです。それで、その年の夏休みを利用して皆さんのお宅を訪問して、お話をさせていただいたり、作品を見せていただいたりしました。お会いした皆さんは、意匠研の話だけでなく、ご自身の作品に対する思いや、ギャラリーを始めるうえで何が大切なのかといったことまでアドバイスしてくださって、その時の卒業生の方々とのつながりが、現在の陶林春窯の基盤になっています。どの先輩も、陶芸に対する思いや、意匠研への愛着の強さといったら、それはもう凄いものがありましたね。


gallery陶林春窯の店内

 

□それでは、廣瀬さんからも今の研究生に一言アドバイスをお願いします。

僕が研究生だった頃と比べれば、今の研究生たちの方がデザインにしても技術にしても、入ってくる情報量が遥かに増えていて、最初からいろいろなことを知っていると思います。それに対して、僕たちの頃っていうのは、何も知らないんですけど、陶芸をやりたいという気持ちだけは強かったように思いますね。
作品も技術が伴っていなくて完成度は低いんですが、一生懸命に何かを伝えようとしているものが多かったです。最近の意匠研の卒業制作展を見ると、作品の完成度は凄く上がっていて、会場の雰囲気やレイアウトも、全体のレベルが非常に高いですね。
そのうえで敢えて言えば、現代の陶芸シーンでは、どんな作品を作るにしても、ただ器用に作っただけでは、なかなか認めてもらえないんですよ。どう表現して、どう伝えていくか、そうしたことが今まで以上に必要とされているように感じます。これから意匠研で学ぶ若い人たちには、制作技術とともに、そういう力を身につけていってほしいですね。

 

□廣瀬さんにとってギャラリーの仕事の魅力はどんなところにありますか?

やはり僕は、うつわの向こうにある作り手の魅力に惹かれてこの仕事を始めましたから、そういう人たちと関わっていけることが、この仕事の一番の楽しさですね。陶林春窯のお客様も、皆さんが若い作り手の個展を楽しみにしてくださいますし、僕自身も彼らの思いや、彼らがやろうとしていることから、常に刺激を受けて、大切なことを学ばせてもらっています。今後もこうしたご縁が続く限り、魅力のある作り手の方々と仕事をさせていただきたいですね。

(2013年9月取材)


※陶器商: 窯元や製陶所から陶磁既製品を仕入れて販売する商社。