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卒業生インタビュー vol.03加藤 智也
第38期技術コース卒業生


□第56回ファエンツァ国際陶芸展グランプリおめでとうございます。イタリアの伝統ある世界的な公募展での快挙ですね。現在の感想を聞かせて下さい。

以前、受賞した先輩(19期卒業生 川上智子さん)がいて、その時の気持ちってどんなものなのかな、と思っていました。受賞して「ああ、こんな気持ちだったんだ」と…。あと、若いうちに獲れて運がよかったと思います。経験も年齢も上の審査員の方に認めてもらえたり、直接知ってもらえると、うれしいですね。


□前回も上院議長賞を受賞されましたが、今回グランプリを獲って主役での受賞は違いましたか?

相手のされ方が違いました(笑)。ホテルでも違いましたよ。名前を言わなくても「加藤さんですね」みたいに。会場でも、学芸員の方がいろいろ気を使ってくれて、審査員の方を紹介してくれたり、選考の経緯を聞かせてくれたり…。うれしかったですね。


立ち上がる像/Rising statue (2006)
[新進陶芸家による|東海現代陶芸の今|
愛知県陶磁資料館(2008)]
図録P36より転載 撮影者:森達也

□グランプリを受賞して周囲の反応はどうでしたか?

新聞に載ったので反応は大きかったです。 昔はこの辺で、こういうオブジェを作ってると不思議がられました。でも最近はこういう世界もあるんだ、というのが認知されてきたように感じます。 工房前の道端に、置いてある作品を欲しいって言う人もいるんですよ。あまり人が通らない道なので、そういう人が出てくると、やっぱり感じますね。


□1mを超すような大型の作品ばかりを作り続けている理由、表現したいことは何ですか?

最近、大きいものを作り続けてよかったと思います。得るものがすごく大きかった。 土の性質をよく知れましたし、発見もある。それに、焼き上がるまでの全ての工程でインスピレーションを受けます。「次の作品、こうしていこう」と、かき立てられることもありますね。
継ぎ目なく一体で大きな作品を作っていくと、何ていうか、時間が関係してくるんです。時期的時間も必要だし、特に経験という時間が要る。「時期的時間」というのは、この時期は立ち上げに、これくらいの時間が必要だ、とか単純な時間。「経験」っていうのは、自分の積んだ経験もそうだし、いろんな人の考えを学ぶとか、歴史を知るとか、先輩に話を聞くような…、フィードバックして学ぶ、そういう時間。
作品は三次元だけど、時間も含めたら四次元の広がりを持つような。陶芸ってそういうもんじゃないかな、って少し分かるようになってきました。


□自身の制作と家業の陶磁器メーカーの仕事はどういうペースで行っているんですか?

作品の制作は家の仕事の前にやってます。朝の3時から6時くらいまで。


ペタンキュー※ですり鉢を成形している様子
(※ペタンキュー:石膏型を使った器械ロクロ成形の美濃地域での呼び名)


すり鉢を手に開発の経緯を話す加藤さん


□陶芸作家としての活動と家業、両方をやるようになった経緯というのは?

僕、大学では航空工学の勉強してたんです。学生時代に空港の運行とか、そういうアルバイトをしてて「大きな会社で飛行機を飛ばす歯車として働くのは、自分は飽きるな」と思ったんです。
それで家業がこういう仕事なので、窯業のことも見てみようと思いました。それから窯業関係の学校を何校か見に行き、意匠研究所に入ることにしました。
作品を制作して、公募展に出し始めたのが意匠研にいる頃で「これを続けるんだったら、家にいる方がいいな、家業を継いでもいいかな」くらいの気持ちだったんですよ。
きちっと継ごうと思ったのは、先生が「オブジェとかそういうもんをやるなら、食いぶちは食いぶちとして、きちっとやれ」と言ったところからですね。 そうやって家業を盛り上げていくと、きちっとしたベースができる訳だから、そういうところで、まずね。


□作家と家業と2つの活動をしているメリット、デメリットはありますか?

悪いところはないですね。どちらもリンクしてるし。
ペタンキュー※をやってる時の土がツーっと上がる感覚、あの素早さが好きで見てるとイメージが湧いてきます。反対に自分の制作をしてる時はゆっくりなんですよ。このゆっくりさが、仕事もよーく考えてって言うような気の長さ。精神修養というか(笑)。


□家業ではデザイナーの側面もありますが、最近開発した商品はどんなものがありますか?

定番のすり鉢のすり目を変えて、新しいすり鉢を作ったり。この渦は、見た目が変わっただけでなく、ものが引っかかりやすくなって2倍早く擂れるんです。このすり鉢は今まで親父が使ってた型を使ってます。
そうすると1つの型で作れるアイテムが2倍になります。不景気になると、少しづつしか買ってくれないけど、アイテム数が増えたことで、今までと変わらない位の売り上げが保てるようになってます。型から作るとお金が結構かかるんですよ。
だから、僕の発想は既存の型だけど手を加えることで新しい何か…。経営者の視点からも見えるから。


□経営、職人の仕事、デザイン、それに自身の制作も。仕事が多岐に亘ってますね。

僕みたいに家業を継がない限りは経験できないことなので、こういう視点でやれてるのは大きいですね。デザインするときも、毎日職人として作ってるから取り込めることもあるし、無理なことも分かる訳じゃないですか。


□そういう立場にいても、ここまで楽しめる人は少ないと思います。

そうですか?こうやって続けてられるのは両輪として楽しんでるからかな。


□産業として、アートとして、いろんな面でやきもの携わる加藤さんですが、研究所で学んで役に立っていることはありますか?

やっぱり基礎的なことですね。仕事していく上で、「授業でああいう話を聞いたな」というのが生きてます。例えば、僕は今、上絵はやってないけど、お客さんに「この釉薬は上絵をすると絵具が剥がれるよ」とかアドバイスしてあげられます。
あと、あの2年間で知り合えた人脈だとか、そういうものが今になってみると感謝ですね。当時、美大を出て陶芸をやっている友達の話とか、全然違うから新鮮でしたね。それに、もっと先に先輩がいてやってきてる、そういう話も聞けた場所でした。今の自分のベーシックな部分をつくった場所です。


□それが今でもやきものを楽しんでやれてるもとになっているんですね。

続けるための原動力になるし、続けてこれたっていうのはありますね。 仲間がいないで一人でやれるか、って言ったらどうだろう…。それに僕らの後輩もがんばってるから、そういうのも刺激になります。


□現在、意匠研究所で学ぶ後輩たちに伝えたいことはありますか。 

厳しい話としては、やる気があるんだったら、食べていく方法をきちっと見つけなさい、って。
やっぱり、やりたいことをやれるように、自分で確保してやっていかないと、なかなか食えるって世界じゃないから…。 あとは、意匠研は他の機関とは違う特長がいっぱいありますよね。それを利用して一生懸命やりたいことをやる。こういう言い方はあんまりよくないですけど「意匠研を使い倒せ」って。
それと、いい先輩と知り合う。そのチャンスがあるところだから。意匠研の後輩だって言えば、恐いおじさんが急に親切なおじさんになっちゃったり(笑)。先輩後輩関わらず、意匠研で知り合った仲っていうのは大きいし、そういう繋がりを大事にできるように、と思います。


 

第56回ファエンツァ国際陶芸展 授賞式の様子

(2009年8月取材)