□グッドデザイン賞に応募したきっかけは何ですか?
入社試験の時から、面接で「グッドデザイン賞をとりたいんです!」って言っていたんですよ(笑)。
入社が決まった後で、会社の方に意匠研究所の卒業制作展に来て頂いた時、私の作品を見て「いいね」って言ってもらえました。そして、入社した後であれを商品に出来るようにしようって話になったんです。ですから、その時にはこれをグッドデザイン賞に出したいなって思いがありました。一年かけて意匠研究所で考えてきた、自分の作品だったので、その分思い入れもありました。
商品化して初めに出したギフトショーではあまりいい反応が無かったのですが、自分では良い商品だと思っていたので、もっと多くの人に見てもらいたくて、自分でいろんな所に持って行ったりしました。それで、東京ミッドタウンのTHE COVER NIPPON(ジカバーニッポン)というお店で、ディレクターの方に気に入ってもらって置いてもらえるようになったんです。 それで自信がついて「(グッドデザイン賞に)出してみようかな」という気になりました。グッドデザイン賞は出品にお金もかかるんですけど、会議で「出してみたいんです」っていう話をしたら、社長に「じゃあ一回やってみたら」って言って頂いて…。
□商品化するまではどれくらいの時間がかかりましたか?
サンプルが出来たのが就職して半年後位です。機能的な問題が結構あったし、卒業制作では鋳込みで作っていたのを、この会社の生産方法に直すという事もありました。サンプルをギフトショーに出したのは9月くらい、そこから生産出来るようになるまで更に半年くらいかかりました。
2007年グッドデザイン賞“parts”
□機能的な問題は何だったのですか?
茶こしから出るスピードと注ぎ口から出るスピードが合わないとフタの方からお茶が溢れてきちゃうんです。だから茶こしに穴がかなり沢山ないと駄目なんです。でも穴を1つづつ開けるのは生産工程上で無理なので、茶こしの穴を切り込み型に変える事で解決しました。
□この製品は意匠研究所での卒業制作が基になっていますね。どのようなコンセプトだったのですか?
生活に適応する存在の物を作りたかったし、自分が使いたいなって物をいつも考えます。
研究所の頃に一人暮らしだった生活で、一人でも使えるし、友達が来た時にも使えるっていうコンセプトで作りました。そのコンセプトはそのまま何も変わっていません。ただ学生のときはコンセプトに偏っていたので卒業してからは、使いやすさとかそういう細かなところを完成させていきました。人に使ってもらえるもの、必要とされるものを作りたいので。
生活の中でズボラな部分を残したいんですよ(笑)。今の日本人に必要な物って何だろうって考えた時に、一般的な陶磁器の様に和食器洋食器といった分け方じゃなくて、本当に必要な物は何なのかという所から考えますね。
□ズボラっていうのは言い方を変えると便利ということですよね(笑)
そうですね(笑)。お茶を葉っぱから選んで自分でブレンドして飲めたりしたらいいな、という考えがあったんですけど、でも「ティーバッグ楽じゃん!」ていう考えもどこかにあって(笑)、ティーバッグを使う人には茶こしがない方が洗い易くて良いだろうし、そういう怠ける所も残して茶こしがあっても無くても使える様なデザインにしてあります。
会社のデザイン室にて
□それぞれのパーツ別(ポット、カップ、ストレーナー、フタ)に売られているんですね。
自分の欲しい組み合わせで自由に買えるし、割れたらその部分だけ補充が出来るから、長く使えるんじゃないかって考えました。一回で全部揃えなくても、買い足して行く事もできるという、この売り方も提案しました。初めは「ポットは普通フタもセットだろう」と言われたりもしましたが(笑)。このデザインだから、この売り方が出来たんです。商品化するときは売り方まで考えましたね。
□デザイナーの喜びってどんなことですか?
こんなお店に置いて欲しいっていう事もあるんですが、近頃嬉しかったのがナゴヤドームでの新人アーティスト展でこの製品を見て欲しいって言って、会社のブースの方に来て下さった方がいて、その時にまだ量産していなくてそこには品物が無い物もあったんですけど、それでも「欲しい」って、なんども来て下さった方がいて。そういうのが一番嬉しかったです。
□三浦さんは美術大学でインダストリアルデザインを専攻していたんですよね。そのあとで意匠研究所で陶磁器デザインの勉強をした訳ですが、研究所で得た事は何ですか?
大学時代は、リサーチしてコンセプトをたてて「そういう物が人に必要とされるか」という考え方中心でした。意匠研に来て素材の活かし方、素材として魅力的に思えるもの、そういう事の大切さを教わったと思います。
□後輩の研究生にデザイナーの楽しさを伝えるとしたらどの様な事を言いますか?
私がこの仕事をしていて感じるのは、「これ良いよね」って人から言われて初めて幸せだなと思える人しか、やって行けない仕事だという事です。仕事は自分の満足だけを追求出来る場ではないですが、商品として沢山売れるから初めて出来る事があると思います。それだけ多くの人に見て、手に取ってもらえる事、それが楽しいですね。
“parts”の基となった卒業制作は
今でも意匠研究所に展示されている。